よくある誤解からひもとく「コーチングって、結局何なの?」の話
「コーチング」という単語は「リーダーシップ」と同じくらい厄介なもの。
というのも、使っている人・受け取っている人によって、その単語の意味のとらわれ方が違うことがあるから。
この記事では、私自身が経験し、実践してきたコーチングのリアルを“誤解”という切り口から整理してみようと思います。
よくある誤解①:「コーチングって、立ち止まってる人のためのものなんでしょ?」
一見、コーチングは「何かに迷っている人」「足が止まってしまった人」が受けるものと思われがち。でも、私が出会ってきたクライアントの多くは、むしろ“動き続けている人”。
ただ、前に進むような動き方をしているとは限らず、現状の不安を解消するために、または、何か直視したくないことから避けるために、行動をたくさんしていたり、またはその結果疲れてしまったり。
過去の経験や、周囲との関係性、自分が自分で紡ぎ出している物語の制約といったものに引っかかっていることになんとなく気づきながらも、同じOSで動き続けてしまっていたり。
少しスローダウンし「本当はどうしたい?」を取り戻すための対話の場としてコーチングの時間を活用する。そんなパターンをみている私は「コーチングって立ち止まっている人のためだけじゃない」と思っている。
よくある誤解②:「友だちや先輩、メンターに相談すれば十分かも?」
自分自身比較的友達・メンターに恵まれている方なので、こう思いたくなる気持ちも、よくわかる。
共感してくれる、気心知れている人や、こちらの性格や特性を理解しながら、自分の体験談を共有してくれる人生の先輩たち。彼らとの対話で気が楽になったり、安心したり、新しいヒントをもらったりすることって確実にあるし、それで十分の時もたくさんある。
でも、自分が時間をかけて思考をめぐらせていく時に、ゆっくり時間をかけて待ってくれたり、自分の意識していなかった部分・でも今向き合うべきテーマを掘り下げてくれたりするような人はまた少し違う存在で。
状況に対する共感や、行動に関わるアドバイスではなく、「あなたにとって本当に大事なことは何か?」部分から前に進む力を引き出してくれるコーチはやはり別腹だと思う。
そもそも、人に相談事をするときの課題のフレーミングが間違っていたり、自分の中ですでにある程度出ている「解決策」に執着してたりすると、自分が求めているものは得られない。コーチはそういう入り口の部分にあるこだわりというか、偏りといったものをやんわりとほぐしながらセッションを重ねていく。
コーチとしてトレーニングを受けた人は、たいていピアコーチングができる関係性・スキルのある友人やプロコーチとの時間を必ず確保している。それは多分、友達や先輩、メンターとの対話とはまた違う時間や影響を得ることができる時間だと知っているからだし、私自身、友人やメンター的な先輩との関わりを通じた刺激とは別にコーチングを受ける時間をとっている。
よくある誤解③:「目的がないと受けちゃいけない気がする」
これもよく聞く話。特に「時間をいただいてしまうのは恐縮」「ご迷惑になるのでは」ということを察することが美徳とされるカルチャーに染まってきた人が陥りやすいパターン。
「もう少し相談したいことが整理されたらコーチングを受けようと思います」というのも似たカテゴリー。
費用対効果(時間もお金)のこともあるので、いつコーチングを受けるか、という意思決定はたしかに重要。でも、実は「こうなりたい(目的)」というものの解像度を高めていく、というのがコーチングの価値の半分を占める(コーチによっては半分以上と言いそう)ということはあまり知られていない(気がする)。
「これからの5年、10年、どんなふうに生きていきたいんだろう」という問いがぼんやり浮かんだだけで本来はOK。最近気になっていることや、感情が動いた出来事、言葉になっていない感覚を扱うことを通して、徐々に自分にとって掘り下げていきたいテーマだったり“自分の中の軸”が見えてきた、という体験も全然あるから。
よくある誤解④:「コーチングって『もっとがんばれ!』『こう、しましょう』って言われそう」
スポーツのコーチ(試合の横で大声で声がけしているイメージ)のイメージから、こう思う人も少なくない。
こういうことを思っている人に伝えたいのは、コーチは応援団でも先生でもないということ。
「こうすべき」「こうするといいよ」というアドバイスも基本的にはない。なぜなら、コーチが永遠に横で人生の伴走することはできないから。
コーチング関係が終わった後もクライアントが自分の力で自分のアプローチで日々を過ごし続けていくこと、ありたい状態に自ら向かっていくことが目的なので、「あなたはどう思う?」「本当はどうしたい?」という問いと、その問いにじっくり向き合える安全なスペースを提供するのがメインのお仕事。
「もっと頑張れ」という激励系の応援ではないけれど、クライアントのその人らしさや、マインドセット・行動・成果に対する承認や、その人の「もっとこうしたい」を承認する人になる。
時に「提案」というかたちでnext stepについて対話の場にネタを投げ込むことはある。それもクライアントがyes, no, 別の提案、という選択肢を持つ話なので「こう、しましょう」とは違う。ここらへん、コーチのそれぞれのキャラや信念もあるので個人差はあるかもしれないが私はこういうスタンスでいる。
じゃあ、コーチングって結局何なの?という話について最後少しだけ。
具体的にコーチングを受けるって何をする?
● 大きな目的を一緒に言語化する
すでに目的が何となくある人も、はっきり決まっている人も、まったくわからない人も。一緒に、それを整理し解像度を高めていく。
● 1回ごとのセッションで扱うことは、その時の「今」
その日浮かんだ思考や、心が揺れた出来事、旬なテーマを個別のセッションでは扱う(私の場合は大体6回セッションで1セットのことが多い)その個別のセッションを通じて、初回で掘り下げた、大きな目的とつなげながら扱っていくのがコーチの役目。
● セッションとセッションの合間の変化も大切にする
コーチと対話をしていない時間も実は大事な時間。思考が更に深まったり、感情が動いたり、新しい行動をためしてみたり。コーチとの時間で向きあったこと、セッションの間に取り組んだこと、それらが時間を置いて新しい気づきにつながることがある。
私自身はコーチと約束したアクションプランをついついさぼりがちなクライアントになるケースが多いのだけれども、それでも予定しているセッションの数日前になると、前回の会話やそのときに自分が感じたこと・言ったことを思い出して、足元の行動を振り返ることが起きたりするから、それだけでも変化につながることがある。
究極、コーチングで得られることは?
色々なコーチが、それぞれの言い方でコーチングの価値を説明している今の時代。
自分自身が一番好きなのは、昔CTIのファシリテーターが「コーチングの価値」を表す図として描いたものをもとにした、以下のようなイメージ。(実際に見た図は過去書いたエントリー「Co-Activeコーチングを学ぶことに」に写真を載せています)
自分が考える、究極、コーチングで得られることは「これ、やってみよう」の状態。
そこに至るまでには、そこまでしても得たいものを見出したり、解像度を上げたり、自己効力感をあげたり、自己承認・許容の時間があったり。まあ、人によって色々なパターンがあるのだけれど。
図にある「壁」は人によってそれぞれ。取りうる選択肢が限られているという現状認識かもしれないし、そもそも今モヤモヤしているという気持ちかもしれないし、または明確に壁の向こうに欲しいものは決まっているのにその到達の仕方がわからない、など、いろいろ。
おまけ:コーチを選ぶとき、どこを見たらいい?
最後に、ここまで読んで、今までまったく興味がなかったけれどコーチングちょっと興味あるかもな、と思った人がいれば・・と、これを最後に。コーチを選ぶときにどこを見たらいいか、の視点。
以下は私個人の考える勝手な優先順位。
特に1-3は、コーチをしている人の多くがやっている「体験セッション」や、初回打ち合わせミーティングなどで情報を得ることができる。
心理的安全性があるか
なんでも安心して話せそうかどうか。コーチがどういう反応をするかな、とか、これを話すと自分に対してこう思うのではないか、という心配をしなくていい相手が一番。「つい話しすぎちゃった」と思える相手かどうか
話すつもりじゃなかったことまで出てきたら、それは相性がいいサインかも。潜在意識において「この人だったら、受け止めてくれる」という、少し心理的安全性と重なる部分もあるはなし。コーチはセラピストや鍼・整体の先生と似ていて相性大事。予算のレンジ
これはコーチによってとても大きな差がある部分でもあるので、要確認。過去のクライアントの声
相性には個人差があるので、他人の感想や体験したインパクトが再現できる保証はどこにもないけれど、どういったタイプのクライアントが多いのかの参考にはなる。共通項の存在
これは賛否両方あるのだけれど、これが皆無のコーチを雇ったとしても全然OKな場合ももちろんある。とはいえ、私の周りをみていたり、AIとの対話でカバー可能な世界も広がっていることを考えると、やはりこういうものが存在する組み合わせが今後増えていくのではないかと思う。例えば医者と、医療セクター経験者のコーチ、とか、海外在住日本人と、海外経験豊富な日本人コーチ。国籍、人種、性別、文化、役職、ライフステージ、セクター、など切り口は無限にある。コーチが自分の背景にとても近い経験をしている必要はないけれども、5.は上記の1. と2.につながる話なので地味に重要。
以上、コーチ歴6年目の私個人の主観が入ったメモでした。
必要な人に届きますように。