Power × Statusで読み解く影響力:肩書きがなくても人を動かせる人がやっていること

社会起業家やNPOのリーダーたちを支援する仕事をしていたとき、よく「影響力 - influence」というものについて考えていた。

社会を変えるために、鍵となるステークホルダーを巻き込み、現状を変えていく、という大きな挑戦に取り組んでいた人たち。

そのためには、明確な指示系統や命令権限がない状況の中でも、人を動かし、ステークホルダーを巻き込み、変化を起こしていかなければならない、そんな人たち。

そのような人たちと「どうやって人を動かすのか」「どうやって共に進む仲間をつくっていくのか」──といった問いに一緒に向き合っていた。

そして、昨年卒業した大学院の「Managing People and Organizations」の授業では影響力(Influence)とは、PowerとStatusという2つの異なる要素の交差点にあるという考え方を学んだ。

いつかブログにまとめたいな、と思いつつ、放置していたこのテーマを改めて考えるきっかけが過去数日立て続けにあった。

  • Coaching.comのサミットで登壇していたNeha Parasharさんが「コーチング関係におけるパワーダイナミクス」について語っていた

  • 先週企画参加したJWNイベントで、マイノリティとして(女性として、有色人種として)この国でどう影響力を発揮するかというテーマが扱われた

なので、今回は自分なりに一度立ち止まって整理してみたいと思って、このエントリーを書いている。

自分の学びのメモとして、以下のトピックにしぼりつつ…

  1. Power(パワー)とは何か?

  2. Status(ステータス)とは何か?

  3. Power × Status で考える影響力(influence)

  4. Statusを高めるヒント:影響力の7原則(心理学者Cialdini提唱)

Power(パワー)とは何か?

大学院で学んだPowerとは、「フォーマルかつポジショナル」な力のこと。つまり、その人の立場や役職などに付随する「他者に影響を与える力」のこと。

たとえば:

  • 組織での役職(上司・部下)

  • 会議での意思決定権限の有無

  • お金を支払う立場か、サービス提供する立場か

  • プロジェクトの予算を握っているかどうか

  • 会う時間を決められる側か、合わせる側か

このPowerは、時に上下関係や“従わなければいけない”空気を生み出すこともある。Powerがあると、自分のスタンスを貫きやすくなる一方で、無意識のうちにPowerを持たない相手への配慮が抜けることも起きやすくなる。そんな諸刃の剣のようなもの。

Status(ステータス)とは何か?

一方で、Statusは「インフォーマルかつパーソナル」な、「他者に影響を与える力」と学んだ。つまり、肩書きや役割ではなく、「その人がどのように周囲から見られているか」によって決まるもの。

信頼されている、尊敬されている、知識がある、誠実そう、センスがいい──
そういった要素が積み重なって「この人の言うことは聞いてみたい」と思われる状態がStatus。

たとえば、ある人が「日本のトップ大学を卒業し、有名企業で長年経験を積んできた」としても、その背景を知らない国・組織に入った瞬間に、それはStatusとして機能しないことがある。一方で、まったく肩書きがなくても、その場にいる人たちが自然と話を聞きたくなるような人もいる。

Statusは、文化や文脈によって相対的に決まり、時間と共に変化する流動的なもの。

その場でどう関わるか、どう信頼を得ていくか、といったはなし。男性ばかりのミーティングの場に女性が参加するときに、あえて声を普段よりも低めに出すといったテクニックも、このタイプのはなし。声のトーン、視線、身振り、服装など、相手からどう見られるかに意識を向けることは、ときに自分のStatusを調整する手段となるので。

Power × Status で考える影響力(influence)

その二つはともに「他者に影響を与える力」の源になるわけなのだけれど、どっちのレバーをどのように活用かするかのパターンは4つある。

  • Status: 高い x Power: 高い:実行力と信頼のあるリーダー

  • Status: 低い x Power: 高い:命令はできるが、納得感や協力が得られにくい人

  • Status: 高い x Power: 低い:🌱 信頼で人を動かす存在

  • Status: 低い x Power: 低い:🟡 目立たないが、関係性によっては影響力は育ちうる

「人がついていきたいと思うのは、PowerではなくStatusを持っている人」──そう言い切ることは難しい。やはりPowerの影響力は大きい。

でも、冒頭で触れたような社会課題に挑むリーダーたちのように、“この人と一緒に進みたい”と思わせるようなStatusを高いレベルで持ち影響力を持っている人もいる。

自分のまわりで、自分の向かいたい方向に周りを巻き込めている人たちを思い浮かべても必ずしもPowerがあるわけではない。でも影響力は高い。

そのヒントには 彼らのStatusの高さが存在している。

Statusを高めるヒント:影響力の7原則(Cialdini)

大学院で学んだ「影響力の6原則」(心理学者Robert Cialdini )は2001年にCialdiniが提唱したものだったけれど、最近は+1(Unity)が加わったものとなっているらしい。

以下が、彼による、「フォーマルなパワーを持たないときでも、影響力を高めるための有効な切り口」となっている。

  • ① 返報性(Reciprocity):親切にされたら返したくなる、という人間の性質。ギブできる人は信頼されやすい。まず与えよう。

  • ② 希少性(Scarcity):限定・特別・今だけ、という演出は関心を引きやすい。希少性を活かそう。

  • ③ 一貫性(Consistency):自分の発言や信念と一致する行動を取ろうとする心理。一貫性を保とう。

  • ④ 社会的証明(Social Proof):他の人がやっているなら自分もやろう、という同調行動。周囲の支持を示そう。

  • ⑤ 好意(Liking):好かれている人、似ている人の言葉は受け入れやすい。好感を持たれるようにしよう。

  • ⑥ 権威(Authority):肩書き、見た目、話し方などから信頼されやすい(例:姿勢・服装・声のトーン)。専門性+見せ方を意識しよう。

  • ⑦ 一体感(Unity):自分と「同じ側」にいると感じさせられると、人は動きやすい。一体感を生むことを意識しよう。

たとえば、マイノリティ(女性、non native English speaker、白人中心のチームでの有色人種など)として多数派に属する相手と対話するとき、
・言葉を選ぶ
・あえて「間」をとる
・相手の目をまっすぐ見る
・声を少し落ち着かせる
──といった行動は、上記の「権威」や「好意」「一体感」を意識した、Statusを高める技術の例。

これらは、個人としてこれから活動していこうとする今の自分にとって重要なリマインダーだな、と思ったり。

と同時に、どれも日々の意識の持ち方や行動の積み重ねの延長に発揮されるような気もして(社会起業家たちのあり方の一貫性やauthenticityのことを思い出す)、小手先のテクニックで自分らしさから離れた形で影響力を身につけようとするのではなく、自分のあり方に意識を向け、自然な形でStatusを育てていく、みたいなことも大事だろうな、という気もした。

おわりに:誰もが持つ、影響力の可能性

結局、周囲への影響力を考えるとは、自分自身のあり方や、関係の中にある力に少しずつ自覚的になっていくことでもあるのだと思う。

私自身も、まだまだ模索・訓練の途中。

そして今回のエントリーでは、どちらかといえば「どうやって影響力を育てていくか」という側面に焦点をあててきたけれど、実はその逆──自分が気づかないうちに、誰かに強く影響を与えてしまっているかもしれないということにも目を向ける必要があると感じている。

たとえば、子に対する親、部下に対する上司、生徒に対する先生といった関係性の中では、PowerもStatusも、知らず知らずのうちに自分の方が“持っている側”になっていて、その影響力の大きさに自分自身が気づいていないこともある。

この“持っているからこそ見えない”という構造には、別のリスクや問いが潜んでいると思う。このあたりのテーマは、またあらためて別のエントリーで書いてみたい。

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