完璧なリーダーはいらない──ビジネスモデル3.0図鑑編集室が教えてくれた、ハイパフォーマンスチームの条件

ビジネスモデル3.0の書籍プロジェクトに関わって、気づけば5ヶ月ほどが経った。ようやく振り返る時間が取れたので、「“ビジネスモデル3.0図鑑編集室”が、どうやってハイパフォーマンスを実現していたのか」について、個人的な感想をまとめてみたい。

ビジネスモデル3.0図鑑編集室って?

端的にいうと、「ビジネスモデル3.0図鑑」という書籍の出版に向けて、今年6月に出された公募案内を通じて集まった、10数名による共創型の編集チーム。

詳細はビジネスモデル3.0図鑑をつくる、編集室の全記録(随時更新)というnoteにもまとめられているが、メンバー構成は実に多様。「ふだん新規事業開発に関わる方を筆頭に、編集を生業にされている方、学校の先生、デザイナー、ブランド戦略立案をされている方、大手メーカー、グラレコをやっている方など」。バックグラウンドも専門性もばらばらなメンバーが集まっていた。

私が関わることになった背景

私がこの編集室に関わることになった経緯は、振り返ると少し不思議で。

今年3月、二人目を出産してまだ2週間も経っていないタイミングで、この書籍の著者となるチャーリーさんに誕生日メッセージを送った。
→ 数年ぶりに1on1のキャッチアップが実現
→ 書籍構想の話を聞く
→ 編集室メンバー募集の案内が出る
→ 応募する

という流れ。

毎年欠かさずメッセージを送っていたわけでもないのに、なぜそのタイミングで自分が🎂メッセージを送っていたのかは正直よく分からない。けれど結果として、こんなにも学びの多い体験につながった。人生は、こういう偶然があるから面白い。

✴︎ちなみに、このエントリーを書き始めたのは12月上旬だったのにも関わらず、その直後から家族がインフルエンザでダウンし、バタバタしているうちに、気づけばクリスマス直前になり、「ビジネスモデル3.0図鑑」の予約販売やオンライン先行全文公開はすでに始まっているタイミングになってしまった。

この編集チームプロジェクトから受け取ったもの

最初からこのプロジェクトでの体験は「人・組織」の視点から書きたいぞ、と思っていた。ようやく書こうかな、という気持ちになったきっかけはFast Companyに掲載されていたこの記事だった。

「The key to high-performing teams isn’t more talent or perfect leaders」Dec 1, 2025

この記事の切り口を借りながら、”ビジネスモデル3.0図鑑編集室”が教えてくれた、ハイパフォーマンスを生むチームとリーダーのあり方を整理してみたい・・そう思って、このエントリーを書いている

「完璧なリーダー」という幻

まずリーダーの話から。

記事には、こんな一文がある。

“High-performing teams don’t need a perfect leader.”

チームの可能性を引き出すために必要なのは、「すべての答えを知っている完璧な人」ではなく、「チームの知性(team intelligence)を活性化させる人」だという。この一文を読んだとき、自然とチャーリーさんの顔が浮かんだ。(図解総研の創業者であり今回の書籍の著者)

チャーリーさんは「俺についてこい!」というタイプではない。むしろ、柔らかさ、誠実さ、オープンさといった言葉がしっくりくる系のリーダーである。

一方で、クリエイターとしてのこだわりや、自分が掲げるビジョンへの徹底したコミット がある。そして同時に、 “自分が全部知らなくていい、チームでつくるのだから” という強いチーム主義も持っている。(これは今回一緒に仕事をして新たに学んだ側面だった)。

ビジョンを掲げるリーダーとしてのチャーリーさんがいなかったら、そもそもこのチームは存在しない。そういう意味で、彼は圧倒的なリーダーシップを発揮している。

ただ、それと同じくらい印象に残ったのは、ビジョンを掲げた「その後」の振る舞い方だった。

チーム集めが終わった後の彼は「一緒にあの山のてっぺんに行きましょう、なんとなく行き方はわかるんですが(前も一回違う山に登ったことあるんで)、歩きながら見えてくることも多いはずだから、とりあえず一緒に歩き始めましょうか」というスタンスのチャーリーさん。

余白をつくる。仲間を信頼する。チームの知性を活性化させるためのあり方を、自然に体現しているように感じた。

さらに印象的だったのは、「今回の書籍のコアテーマである『共創性』と『適応性』を、私たち自身もチームとして体現しよう」というメッセージを、彼が繰り返し発していたこと。

ビジョンを語り続ける、余白を残す、仲間を信頼して、委ねる。そして、進む上で大切にする価値観のリマインドも忘れない。

ここまでが、私がこの文章でまず書き留めておきたかった前半部分。

チームの知性を支える3つの柱 - Three Pillars of Team Intelligence -

そして後半は、記事にもあった「チームの知性を支える3つの柱」という切り口に基づいて、”ビジネスモデル3.0図鑑編集室”のパフォーマンスがどう支えられていたかというものを整理したい。

記事では、ハイパフォーマンスチームは次の3つの柱によって支えられていると整理されていた。

  • Reasoning

  • Attention

  • Resources

厳密に学術的に確立されたフレームワークというより、複数の文献や研究を統合して著者が整理した概念のようだが、個人的にはとても納得感のある切り口だと感じた。

以下、この3つの柱が「ビジネスモデル3.0図鑑編集室」でどのように具現化されていたのかを振り返ってみたい。

Reasoning - どんな視点で考え、どう意思決定するかの判断基準の共有

Reasoning の柱がしっかりしている状態とは、考えるために必要な枠組みや視点が、チームの活動フィールドに存在していること。そうであれば、「どんなアイディアや問いを出すと、チーム全体にとって有益か」が自然と分かる。

その結果、「これを今共有していいのだろうか」といった余計な迷いにエネルギーを使わずに済む。

図解総研では、まさにこの Reasoning が丁寧に整えられていた。

  • Notion 上の情報構造が一貫しており、使う人目線でデザインされている

  • 相互理解のための自己紹介テンプレートなど、最初から「チーム感」を醸成する仕掛けが用意されていた

  • プロジェクトの現状や次の見通しが常に共有されていた

  • 月次のリズムがあり、ミーティングの目的や参加者への期待が明確だった

  • 早い段階で役割分担が整理されていた(私は5社分の事例のメイン担当を担った)

こうした “思考のためのインフラ” があることで、メンバーはそれぞれ異なる状況にいながらも、共通のゴールに向かって自律的に走り続けることができていた。

一見地味に見えるが、この Reasoning が欠けているチームでは、本来引き出せるはずの collective wisdom や potential が最大化されない。だからこそ、この柱づくりとメンテナンスの力は、本当にピカイチだったと感じている。プロジェクトの全体の進行をファシリテーションしていた「いまむー」さんのリーダーシップ。

また、あるあるなのだけれど、他人が作ったGoogle Drive/FolderやNotionはしっかり使おうと思っても、いろいろ忘れてしまうことがある。編集チームメンバーそれぞれの個性や特性やうっかりなどを許容する図解総研チームの寛容さがところどころで伝わってきたことも、心理的安全性につながっていた。

Attention - いま何に集中すべきかが伝わりやすい仕組みの存在

Attention の柱が機能している状態とは、チームが「いま何に集中すべきか」という優先の方向が、自然とそろうように促されていること。そうであれば、エネルギーや視点の向けどころが共有され、迷いや過負荷が減っていく。

今回の編集チームは、本業や家庭環境、確保できる時間が本当にバラバラだった。プロジェクト中に子どもが生まれた人、卒論提出直後の人、そして私自身も、5歳児と0歳児がいる夏休み期間は働き方を調整しながら参加していた。

だからこそ、この Attention が機能していたことは非常に重要だったと改めて思う。

  • Slack には「この日までに優先すべきこと」「今はスローだが次のフェーズが来る」といった情報が、適切なタイミングと量で流れていた

  • 編集ミーティングは、事前アジェンダ、Notion の使い方、Slack チャンネル設計、議事録・録音活用などが整っており、定型と余白のバランスが心地よかった

  • 「help が必要」「今ここを見てほしい」といったイレギュラーな呼びかけや、役割に応じたリマインドも健全に共有されていた

  • 個別 DM に閉じず、ほとんどのやり取りがオープンなチャンネルで行われ、情報と“空気”が可視化されていた

  • 早い段階で生まれた Slack のカスタムスタンプも、場の空気を共有する役割を果たしていた

オンラインかつ分散したチーム(私自身も時差のある場所から参加していた)において、こうした「空気が伝わる仕組み」「漂う空気を読み取りやすい環境」は本当に大事。

出版社との締め切りがある中、短期間で集中して作業するという痺れる条件にもかかわらず、誰もバーンアウトせずに finish line が見えている。その理由は、この Attention の柱にあったと強く感じている。

Resources - 実行に必要な知識・経験・サポートに迷わずアクセスできる土台の整備

Resources の柱がしっかりしている状態とは、考えたことを実行に移すために必要な知識・経験・スキル・サポートに、チーム全体が迷わずアクセスできること。Reasoning が「どう考えるかの基準」をそろえる役割だとしたら、Resources はその考えを実行に変えるための具体的な力を場に満たす役割を担う。

この編集チームでは、それらが「誰かに与えられる」のではなく、思いついた人がさっと形にし、皆のリソースとして共有されていった点が印象的だった。

具体的には

  • 図解テンプレート、コンセプトピッチ、取材依頼メールのドラフトなど、役割を果たすために必要なものが揃っていた

  • 途中で気づいたニーズに応じて、新たな資料や仕組みが共につくられていった

  • 自分たちの制作作業をサポートするCustom ChatGPTの誕生や

  • 定期的に行われる編集部チームミーティングの録画・議事録を活用したポッドキャストの誕生。広報にも役立つかも、と作られたポッドキャストは、参加できなかったメンバーのキャッチアップ用というリソースとしてはもちろん、自分たちチームのプロセスを振り返ったり俯瞰しながら一緒に楽しむリソースとして存在感を出していた(担当してくれたメンバーの皆様、本当にありがとう)

完全なる主観ではあるものの、ここ数年、少人数で事業を立ち上げる動きや、個人事業主として生きる選択が増えていると感じる。そんな流れの中で、この期間限定の編集プロジェクトは、自分にとっての「これからの働き方」のヒントが詰まった体験だった。人・組織を支援する仕事をしている人間としても色々なことを考えさせられるものだった。

ちょうど同じ時期に「そして僕たちは、組織を進化させていく - AIと共鳴する「タイニーチーム」のつくりかた」(斉藤徹さん)の本も発売され、AI界隈では Gemini / NotebookLM などの進化が加速していたタイミング。

小さくても自走するハイパフォーマンスチーム。
そこで力を発揮するリーダーのあり方。
それを支える仕組みと、AIという伴走者。

2025年後半という面白いタイミングで、非常に学びの多い体験をさせてもらったと感じている。

私たち編集チーム、取材先の皆さんを含めた、本当に多くの人が一緒に共に生み出した書籍「ビジネスモデル3.0図鑑」はこちらから(VALUE BOOKSの外部リンク)予約購入可能です

P.S. 個人的には

  • 生活費が高いニューヨークでお世話になっていて、最近日本進出を発表したToo Good To Go(「捨てるにはもったいない」食品を消費者につなっぐ、デンマーク発・食品廃棄削減アプリ)

  • 以前働いていた職場Acumenの初期の頃の投資先だったAravindの眼科病院(高効率な手術と支払い能力に応じた仕組みで、誰もが治療を受けられる眼科)

  • 以前このブログでもかいたBe My Eyes(視覚障害者のちょっとした「困り事」を解決するビデオ通話アプリ)

  • 大学院生としてのField Tripで訪問する機会があったベトナム初の社会企業のKOTO(恵まれない境遇の若者に、ホスピタリティ業界認定の包括的職業訓練を届ける社会的企業)

などについても、ぜひぜひ日本の人たちに知って欲しいと思っている。

P.P.S. 最終校正が終わり出版社に原稿の納品が終わった後に、チャーリーさんが編集部チーム一人一人に感謝状をPDFで作ってメッセージと共にslackに流してくれたというエピソードも忘れないように。最初から最後まで素敵なリーダーでした。

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