AI時代に問われる、「何を望めるか」という力——Claudeと欲しかったものをつくってみた記録
4月は個人的に仕事が相対的に少ない月で時間を持て余していた。
一方で、1歳になった下の子のデイケアを変えたことで、慣らし保育期間があり、まとまった自由・作業時間の確保も難しく。
なので、仕事好き人間として嬉しいようなモヤモヤするような、不思議な1ヶ月であり、後半に入る頃にはアウトプットをしていないことに対する焦燥感のようなものも感じ始めるようになっていた。
そんなソワソワしている私をみて、「だったら、今まで(クライアントワークがあったから)できなかったことをしたら?なんか創ってみたら」とパートナーが言ってくれた。
確かにクライアントのいるプロジェクトが始まると、それが優先されて、自分一人で進めたいプロジェクトや構想は後回しになる。
そうか、今は自分のワクワクや興味を一番に優先させていいという時期なのか。
そんな彼の言葉に背中を押され、4月の最終週は、昨今話題のClaudeを相棒に、欲しかったものをゼロからつくることをしてみた。1歳と5歳を抱える母親として相変わらず隙間時間は限られているものの、この週に同時に3つのmy projectsを走らせ始めることができた。そのうちの一つの体験の振り返り・記録をまとめておく。
これは技術解説というより、エンジニアではない自分が、AIを相棒に“欲しいものを言葉にしながら形にしていった”数日間の記録である。
結論・感想
3つのプロジェクトを横断しての感想は、人類は、すごい道具(ClaudeやChatGPTやGemini)を手に入れてしまったな、ということ。同時に、この道具で便利になったことで、衰退する能力が確実にあるんだろうな、ということにも意識が向き始めている。
「衝動格差」という単語がエンジニアの友人との対話で出てきて、強い印象に残った。この格差は確実に広がりそうな気がしている。「こういうふうになったらいいのに」「これがほしい」という気持ちを強く持ち続けること、理想形を具体的に描ける力(少なくとも何かをみた時にそれが自分の理想に近いかそうでないかを判断する力)が大事になりそう。教育・人材育成・組織開発に関わるプロ、子育て世代としては興味ど真ん中のテーマである。
コードを書いたことも、データベースを設計したことも、サーバーを立てたこともない自分のような人間がここまで作れたとしても、やはり素人なので「何を自分が知らないかを知らない」ことに変わりはない。そんなnew normalにおける「チーム」の存在意義や、それぞれのメンバーの役割・共創の在り方についてもっと考えることになりそう、という気持ちにもなっている。
以下は、そんな感想を抱くきっかけになった個人プロジェクトの詳細と記録。
何をつくったか
自分が運営メンバーとして関わる「日本人女性プロフェッショナルinニューヨーク」のコミュニティのためのツールを作った。
ユーザーは2タイプ。運営側の我々。そしてコミュニティメンバーの人たち。
今これを書いている段階では、以下のPhase 1の開発・リリースが終わった段階。これから運営メンバーに詳細を共有して改善していこう、どうやって実際に使っていくかを検討していこう、という気持ちにある。
Phase 1:運営メンバーが今までのプロセスをスムーズに進めるために必要な機能の搭載
Phase 2:コミュニティを運営・活性化するためにあるとよさそうな機能の搭載
Phase 2にどういうものをつくり、どういう順番でローンチするかを含め運営メンバーとディスカッションしながらPhase 2は開発したい、そんなことを思っている(そして5-7月は少し仕事が忙しくなりそうなのでJWNのツール開発ペースは落ちるはず)。
JWNとは
JWN(Japanese Women's Network)は、私が2018年に参画する機会があった、ニューヨークで活動する日本人女性のコミュニティ。
ニューヨークで長く働く経験を持っていた3人の日本人女性先輩方が「自分たちが欲しかったコミュニティを自ら創った」結果生まれたもので、キャリア、ライフ、つながり——それぞれの人生のステージを生きる女性たちが、1-2月に一度くらいのペースで集まるというシンプルな仕組みとして続いている。
すでに共同創業者の二人の方は日本に帰国されていて、一人の共同創業者の方と私を含む5人の運営メンバーで無理ない形で続けてきた結果に今がある。自分は2018年から運営メンバーとして関わり続けている。70回以上イベントを重ねてきた。
今回Claudeに作ってもらったLP(landing page)のスクリーンショットはこんな感じ。まだコミュニティに正式に公開はしていない。(のでwebsite linkは入れていない)
このページも一見シンプルだが、これができるために、メンバーや過去イベントのデータ、upcomingこれからのイベントの情報の入り方、メーリングリストへの追加体験など色々なことが背景に設定された上でこのページが機能している。
何が欲しかったか - 運営メンバーとして、継ぎ接ぎだらけの7年間
私がそもそも最初に運営メンバーに関わるようになったきっかけの一つは「RSVPの収集をGoogle Forms使うと楽ですよ」と共同創業者の方に伝えたこと。
当時働いていたAcumenでもボランティア運営・コミュニティづくりをしていたこともあり、その時の体験が役に立つなら、と思って気軽に提案したのが始まりだった。
そして、コミュニティが育つにつれて、運営の裏側はこの7年の間に少しずつ複雑になっていく。
2025年末の段階では、以下のようなツールを組み合わせて運用する状況になっていた。
Google Group — メーリングリストの管理
Airtable — RSVPフォームの作成・参加者管理・メンバー名簿(年間120ドルほど発生)
Gmail — イベント告知とリマインダー
LinkedIn(プライベートグループ) — コミュニティ交流
それぞれのツール自体は悪くない。でも、コミュニティ運営側としてはそれぞれに不満はあった。
そして、それらバラバラツールがつながっていなかったため、つなぎ合わせる作業をやるのは、いつも人間(=私たち)だった。
それも微妙に面倒くさく、自分たちがワクワクする時間(企画をしている時であったり、実際にコミュニティメンバーとの時間を楽しむ時)の土台として必要なのは分かりつつ、it would be so great if that could be much better (but no time nor resource) という状態だった。
運営メンバー6人の間でも、これらのバラバラツールの「つなぎ合わせ」のノウハウ浸透の濃淡があったり、一回やって慣れても、時間がたつと忘れてしまって学び直しの追加時間・リソースが発生したり、と、仕組みの整備ではなく個々の努力でなんとかやってきた、という7年だったと思う。
具体的なコミュニティ運営者としての課題
それぞれの「面倒だな」は我慢できないほどではない、だから「現状を変えなければ」という意思決定にはなりづらい。
でも、今回AIを使って自分が運営者として欲しいものをどんどんと作っていった結果、一体どういう(大小の)課題を自分たちが抱えていたのかが整理されて、正直びっくりした。
いかに人間側が我慢をしていたのかということ。
私が今回つくったものは、うまくいけば(色々実験をして改善を重ねる必要はあれど)これらが解消されるものになっているはずだ。
備忘録として、浮き彫りになった「我慢していたポイント」を整理する。ちなみに、この一覧も、Claudeに「ここまでつくったツールをみて、私が課題として捉えていたことを整理して」と指示して出してきたものをベースに整理している。
告知からRSVPまで、複数ツールを横断する不便さ
Airtableでフォームを作り、GmailでGoogle GroupのMailing list宛に告知を送る。裏では、イベント企画後にAirtableでフォームをつくり、告知文の下書きをGmailまたはSlackで相互レビュー。告知後はRSVPした人を見られるリンクをAirtableでつくり、Slackでシェアし、定期的に何人がRSVPしたかを確認し、リマインダーを送るかどうかを意思決定し、リマインダーを送付する。毎回繰り返される複数ステップの作業が発生していた。案内メールがスパムに入る
Google Group経由で送ったメールなので、かなりの確率でメンバーの迷惑メールフォルダに振り分けられるという事態も。カレンダーとの連動がない
私たちのRSVPフォームには、カレンダーに追加するボタンが生成されるようにはできていなかった。そのため、RSVPしてくれたのに当日忘れてしまった、というケースも一定数あり、イベントのことを忘れないようにする負担がコミュニティメンバー側に寄ってしまっていた。参加予定者へのリマインダーが毎回手作業
イベント直前のリマインダー、たとえば当日のZoomリンクや住所の共有などは、Airtableから参加者のメールアドレスを抽出して、運営メンバーが個人Gmailで手動送信。これも地味に時間がかかるし、前日に慌てて対応することもよくある。イベントに来た新しい参加者へのフォロー不足
口コミでイベントに来てくれた方が、AirtableのRSVPはしたけれど、Google Groupのメーリングリストには未登録、というケースも。そうすると、その人たちには次回以降のJWNイベントの情報が届かない状態になってしまう。コミュニティに関するデータを収集する仕組みの欠如
Google Groupのリストと、Airtableのメンバー情報が別々になっていたため、両方に登録している人もいれば、そうでない人もいる、という状況に。メンバーの属性やイベント参加履歴はAirtableにありつつ、Google GroupリストのほうがAirtableより100以上登録数が多い。結果として、コミュニティ全体を反映した正確なデータを運営側も把握できないという事態になっていた。メンバーが自分のプロフィールを更新できない名簿
転職した、NYを離れた、子どもが生まれた——そういったライフイベントに合わせてプロフィールを更新したくても、Airtableを通じて作った名簿は運営に連絡するしかない構造だった。結果、誰も更新をしていない名簿になっていた。キャリアにおいてもプライベートにおいてもダイナミックな人生を歩んでいる人が多いのがこのコミュニティの魅力なのに、それが正確に反映されていないのは、コミュニティとしてもったいない。コミュニティの歴史が見えにくい
常に口コミを通じて新しいメンバーがイベントに来てくれたり、コアメンバーになってくれたりする。それは嬉しいのだけれど、過去にこういうイベントがあって、とか「この人は過去に登壇してくれて」といったことを毎回説明するのもなんだかなぁ、と思うことが多かった。初めて来た方・興味を持った人が「このコミュニティにはどんな歴史があるんだろう」を気軽に確認できる場所がほしかった。メンバー同士がリソースを自由にシェアできない
「この情報をみんなに共有したい」という声があっても、運営を介さなければ発信できない構造。結果として、運営がボトルネックになっていたし、Google mailing listに大量に情報を流すことも避けたかった。最終的にはLinkedIn groupで自由にシェアしてもらうことにしていたけれど、LinkedInはそもそも毎日アクティブな人がたくさんいるプラットフォームではない。アクティブなのは、求職中の人、個人事業主・起業家、仕事でLinkedInを見ることが必要な人たちくらい。受け取り側のエンゲージメントが高くないことが伝わると、投稿する人も減っていく。
もしかすると見落としている他の課題もあったかもしれない。それにしてもなんと多いことか。
とりあえず、これをみて思ったことは、ここまでの不都合・不便さを乗り越えながら続けてこれたのも6人のチームワーク、そしてコミュニティメンバーからのフィードバックがあったからこそだな、という感謝の気持ち。
とはいえ、やはりサステナブルにコミュニティ運営するために改善できるならば、したい、そう思わされる。
願いを言葉にすることから始まったClaudeとの共同作業
ちなみに自分のClaudeとのチャットの一番始めはこんな感じで始まった。上記の個別の課題を細かく言語化してから始めたわけじゃないという点がポイント。
4月23日のつぶやきはこんな感じ↓。ちなみにClaudeの音声toテキストは実は少し自分と相性がよくないので、あえてChatGPTにつぶやいて正確にテキスト入力になったものをClaudeにコピペして、開始。
Hi, i currently manage a community of japanese women professionals in New York called JWN. We had not been really invested in tech tools/stack so have been patch-working for a while. Now you are here (yay claude!) i am ready to create a new tool that will replace what we currently have which is a combination of
google group (for mailing list management)
airtable (for RSVP form creation, tracking RSVP, and also directory function which is not reallly active)
as community manager we have specific clarity on what we want this tool to do so i would love the help
その後Claudeから何回か詳細を確認する質問をされ、それを答え、課題が整理されていく、という流れからプロダクト開発が進んでいった。
ここの体験は「研修をお願いしたい」と事業会社に言われ、コンサルタントとして「真の課題はなんですか」を対話を通じて整理して共通認識にしていくプロセスと全く同じだった。
対話を通じて「そうだ私がほしいのはそれだよ」と自分でも気づきを得る感じ。
しばらく私の真の課題感・願いを聞き出した後に、適当なタイミングでClaudeは「じゃ、あなたが欲しいのはこんなもの?」とスケッチを出してくる。
こうやって具体的なものが出されるから、フィードバック脳がアクティブになる。これをみながら私が、どんどん「これがほしい、これは違う」をひたすら伝える。
Claudeはそのまま私の提案を反映することもあるし、「一旦、そのコメントの意図を確認させてください。あなたがいっているのはAとBのどちらですか?またはどちらでもない?」みたいに言ってくることもある。これ、コンサルタントの仕事と一緒、笑。
つまり、Claudeと一緒に何かを創るという作業をするとき、必要なのは「欲しいものを、ちゃんと言語化する」力なんだけれど、その時必要なのはHOWを具体的に伝える力というよりは、WHYの部分であるとか譲れない軸みたいなところを伝える力なのかもしれない、それ以外はふわっとしてても大丈夫。
そこらへん人材育成コンサルタントfor事業会社もそうだし、コーチングfor個人で起きることとも重なりがある。
最終的に、Claudeに提案されたのは、私の開発プロジェクトは2つのフェーズに分けて進めるということ。
そのうえでのPhase 1は以下のような組み合わせでできるということを提案された。
もちろん自分は今までGoogle Apps Scriptなんて使ったこともなければGithubのアカウントもない。
そんな状態の私にClaudeは全てのステップを丁寧に教えてくれて、途中たくさんスクリーンショットを送って「これなに?」「助けて」を伝える私に辛抱強く伴走してくれた。
そして、一つずつ開発マイルストーンを私が達成するたびに承認してくれるClaude。
これは、自己効力感あがる。
楽しいから頑張ろうと思う、頑張ろうと思うけれど一人だと難しい。難しいことを達成できると嬉しい・楽しい。
そしてまた頑張ろうと思う。その繰り返し。
そんな数日を経てつくった以下のものはこんな感じ:
アウトプット:
メールを受け取ったメンバーが自分で配信設定を変更できる機能(全件受信・オンラインイベントのみ・配信停止)
イベント参加希望者がRSVP送信と同時に届く確認メール+カレンダー招待(.ics添付)、RSVPを別の知り合いに転送するためのリンク取得のadd on
新しい参加者がイベント参加RSVP送信後にその場でメーリングリストに登録できるフォーム(今まではなかったコミュニティガイドラインへの同意付き)
2018年からの73回のイベントアーカイブ、それが載ったLP(Landing Page)
パスワード付きで、運営側だけがアクセスできる機能
イベントごとに生成できるRSVPフォーム(メンバー名簿と連携、参加オプションをカスタマイズ可能、今までcover photoはunsplashから無料画像をダウンロードしていたのも、プラットフォーム上でキーワードで適当な写真を選べるようにした)
運営メンバー6人の個人メールアドレスからイベント案内のメールが送れるようにする仕組み(その機能があることで、メールを受け取る側の体験は今と変わらない)
自動リマインダー(締切3日前に未回答者へ、イベント2日前に参加者へ)送付機能(迷惑メールにいきづらいカスタムドメインのJWNメールアドレスより)
Google Sheetsをデータベースとした一元管理のメンバーディレクトリ(435名)
コスト比較:
旧スタック: Airtable $100+/年 + Google Group(無料だがスパム問題あり)
新スタック: サーバー代 $5/月 + メール送信(無料枠)+ Google Sheets(無料)+ ドメイン($11/月)
私個人のtrasnferableな学び(別のプロジェクトに応用可能な学び):
このプロジェクトを始める前はアカウントを持っていなかったGitHub、Railway、Resend.com、Unsplashにアカウントをつくり、それらがどう連携するかも理解
オリジナルのドメインを取得し、それをDNS連携するプロセス(これはこの個人ブログや法人ウェブサイトを立ち上げた時にもやっていたこと)の復習
デスクトップ上のTerminalという機能をおそるおそる触ってみる経験ができた
オンライン上で Command+Option+Jを押すという体験(これはショートカットで使うことになれた)
とにかく色々なことをギュッと短期間で身体的に習得することができた数日だった。
次のステップ(Phase 2)も楽しみ
運営メンバーとの対話がまず次のステップではあるものの、開発の次のフェーズでは以下のことを目指している。
Airtableにある過去のイベント参加記録のデータをclean upして新しいデータベースに反映すること
メンバーが自分のアカウントでログインし、過去の参加イベント履歴を見たり、プロフィールを自分で更新したり、コミュニティのデータを匿名化した形で見られるようにする予定
さらにその先では、メンバーが情報やリソースを投稿し、AIがそれを整理して週次ダイジェストとして自動配信する仕組みも将来的には開発予定
運営の手を介さずに、コミュニティが自律的に動く仕組みを整備する——それが目指す姿。
でも正直どういう結果になるか分からない。自分の熱が続くのかも分からない。
それでも、普通にこのゼロから何かを自分の思い通りに具現化する、創るという体験が普通に面白すぎて、これはなかなか病みつきになりそうだな、という予感しかない。
他にも同時に始めた2つのプロジェクトもあるし、できる限りこうやって立ち止まって振り返る時間を確保しながらこの軌跡を記録しておきたい。
この超長文ブログを読んでくれた方で「私もこういうのつくった」「こういうのつくりたい」をおしゃべりしたい人はいつでも連絡welcome(カレンダーツール)。色々話したい。
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