「自分を言語化する」体験としてのビザ申請(O-1ビザ)を振り返る
このブログで、米国の就労ビザについていくつか書いていた中で、何回か登場していたO-1ビザというもの。実は昨年、そのビザを取得した。
今このブログを書いている1年前には想像をしていなかった展開ではあったものの、2024年の5月上旬に情報収集開始、意思決定をその月にして、9月末の申請、10月下旬のPetition Approval、11月半ばの大使館面接と、あっという間のことであった。
今回は、自分にとっての2024年の一大イベントの一つでもあった、O-1ビザ申請・獲得について、記録しておきたい。(とはいえ、この国の、就労ビザを取り巻く環境は、日々変化しているので、あくまでも2024年末までの情報になる)
具体的には
O-1ビザとは
複数存在する申請パターン
取得に重要だと自分が感じたこと3つ
をまとめてみる。
O-1ビザとは
O-1ビザは、米国で「卓越した能力(extraordinary ability)」を持つ個人に与えられることで知られている就労ビザの一つで、芸術、科学、ビジネス、教育、スポーツなどの分野で「持続的な実績と、国内外での評価があること」が要件とされている。
カテゴリーは大きく二つあり、ビジネスや科学、教育などの分野での活動を対象とするのが O-1A、映画・テレビ・芸術などクリエイティブ分野を対象とするのが O-1Bとなり、私のようなプロフィールの人間や、最近申請する人が増えているとされているスタートアップの起業家が検討するのは前者となる。
H-1Bのように年一回行われる、抽選の仕組みはなく、通年でいつでも申請をしたいときに申請できる、発行数の上限もなし、というのがこのビザの特徴でもある。
一見すると「すごい人だけが取るやつでしょ?」という印象を持たれがちなのだけれど(自分もそう思っていた)、キャリアの中で積み上げてきたものがあり、それが一貫したストーリーとして証拠と共に提示できるのであれば、夢のまた夢というビザではない、というのが今の自分の実感でもある。
複数存在する申請パターン
ちなみに、自分も昨年本格的に検討するまで知らなかったことなのだけれど、O-1ビザの申請パターンはいくつかある。違いは、「誰が申請主となるのか」「どのように仕事を行うのか」の組み合わせ。
具体的には以下のようなかんじ。
① Company-Sponsored(雇用主による申請)
特徴:1つの会社が申請主(Petitioner)となる形式
前提:明確な雇用関係があり、その会社でフルタイム勤務することが想定されている
例:デザイン会社で社員として働くグラフィックデザイナー、大学で研究職に就く研究者など
備考:H-1Bに近いイメージ。副業などは原則NG
② U.S. Company Owned by the Applicant(自分のLLCを通じての申請)
特徴:申請者自身が所有するアメリカ法人(例:LLC)がPetitionerとなる
前提:LLCが雇用主としての体裁を整えている(たとえば自分のケースだと、Manager managed LLCという体裁にしていて、自分の法人の理事たちが、私をCEOとして起用・解雇する権利を持つ)
例:コンサルタント、コーチ、専門家として、自己所有LLCを通じてクライアントと契約する場合
備考:会社と申請者の関係性、雇用契約などを明確に構成する必要がある
③ Agent-Based(複数プロジェクトの取りまとめ形式)
特徴:エージェントが、複数のプロジェクトやクライアントとの契約を束ねて代表申請
前提:申請者が個人事業主やフリーランス的に動くスタイル
例:音楽家、俳優、講演者、コンサルタントなど、様々な案件に関与するケース
備考:各プロジェクトごとの契約書やスケジュール表の提示が必要
前述の、芸術・映画・TVといった世界にいる人向けの、O-1Bを検討するような人は③のパターンが多いという。一方O-1Aにおいては、雇用主が明確な場合は①が最もスムーズである一方で、雇用主の仕事しかできないというH1B的な制約が存在する。自分は、過去にO-1ビザ取得(その後EB1カテゴリーのグリーンカード取得)したことのある友人から、彼女が使った移民弁護士を紹介してもらい、その弁護士に②のパターンを紹介されて、そんな方法があることを初めて知った(そしてその道を選んだ)。
他にもConcurrent O-1(同時並行ビザ)という形もあるという。
特徴:すでに1つのO-1ビザを持っている状態で、別の申請主(会社やエージェント)からのO-1を追加で申請できる制度
例:教授が大学で研究活動(Company-Sponsored)をしながら、同時に講演活動のためにAgent-Basedで別のO-1を保有するケース
備考:複数のO-1を同時に保持するときに、それぞれが「重複しない範囲」での活動ならOK(職務内容・期間が明確であること)
これらの四つを整理してくれている、こちらのtweet⬇︎は個人的には保存版。
*Most* US work visas have the same pitfalls:
— Logan Ullyott (@Loganullyott) June 4, 2024
Lose your job, lose your visa. Leave in 60 days. Bye 👋
Almost all people on visas are W2 employees and their visas are controlled by a corporate HR team :(
Founders often make the same mistakes, even with their own company.
If… pic.twitter.com/nhggpFbMsb
申請プロセスを通じて、大切だと感じた3つのこと
そんなO-1ビザの申請プロセスを通じて、あらためて「これは大切だったな」と思うことが3つある。
1つ目は、専門家のサポートの存在。
もともとO-1なんて取れるのだろうか・・と自分自身懐疑的であった状態から、ビザ取得まで走り抜くことができた最大の要因は、相性の良い、経験豊富な移民弁護士の存在であった。もともと繋がりのあって、信頼関係もあったH1Bビザ時代にお世話になった移民弁護士ではなく、今回は、特殊なビザであるO-1の経験豊富な弁護士を使うことにした。O-1は特殊だから、と友人がアドバイスをくれたのだが、結果、その選択をして本当に良かったと思った。
私の弁護士は、ブルックリン出身のイタリア系の、面倒見の良いプロフェッショナルなLindsay。彼女自身が丁寧で、細かいプロフェッショナルであるのはもちろんのこと、必要に応じて他分野の専門家との接続をしてくれた点も大変ありがたかった。まさに、client centeredな素晴らしい弁護士。具体的には会計まわりの相談ができる人や、LLCを立ち上げる場合の登記や書類作成を手伝ってくれる専門家、さらには推薦状の依頼先となる業界の第一人者とのつながりなど色々とお世話になった。
彼女は一人で仕事を回している個人事業主なので、時折時間がかかることもあったけれど、Lindsayに出会えたことは本当によかった。
2つ目は、自分は「何の専門家なのか?」という軸を定めること、そしてそれを支えるストーリーテリングの重要性。
O-1ビザの申請には、「その人がどの分野において“卓越した能力”を持つのか?」を明確に示す必要がある。その際に、自分自身が「何の専門家として申請するのか」を定義する作業が想像以上に重要だった。最初、弁護士がドラフトしてくれた紹介文には「日本と海外をつなぐクロスカルチャーの専門家」といった表現が含まれていたが、自分の中ではしっくりこなかった。そこで改めて、自分のキャリアや関心の軸を振り返り、「ミッションドリブンな組織における人と組織の専門家」としてポジショニングすることにした。
その上で必要になるのが、“それを支える証拠”の棚卸しとストーリーテリング - どの活動を、どの角度から語ればその軸がより説得力を持つのか? 弁護士と二人三脚で議論を重ねながら、「点」を「線」にする作業を進めていった。
O-1申請には、定められている9つの項目のうち、少なくとも3つ以上を満たしていることを見せていく必要があるとされていて(参考:USCIS - O-1 Visa: Individuals with Extraordinary Ability or Achievement)、どうやってそれを説得力もって語れるかというのがポイントになる。
もちろん、最終的に移民局に伝わるようにストーリーを構築するのは弁護士だとしても、その材料となる「点」を出せるのは自分だけ。これまでの正規の職歴だけでなく、1回きりの登壇、ゲスト寄稿、講義、ボランティア、そして課外活動の数々をひたすら洗い出していく作業は、まさに自分と向き合う時間だった。(自分の中では「点」だと無自覚であったポッドキャスト発信内容やブログも、弁護士に「(証拠・補足情報として)入れておきましょう」と言われたのは少し驚いた)
そして3つ目は、コミュニティ・仲間の存在。
申請の初期に、たまたま見つけたMediumの記事「A systematic guide to successfully applying for an O1 visa」で「O-1ビザ取得を目指す人たちが集まるDiscordコミュニティ」の存在を知った。そこには、分野も背景も異なるさまざまな人たちがいて、それぞれの方法や工夫をシェアしあっていた。私とはまったく違う状況の人たちも多かったが(テック系・スタートアップ系)「この不確実性が高く、クリエイティビティと努力が求められるチャレンジをどう乗りこえてビザを取得できるか?」という問いに向き合っている仲間の存在が、申請中の不安や孤独を和らげてくれた。
国を超えて試行錯誤を続ける人たちの温度感がリアルに伝わってくる場所だったし、そこでのインプットをもとに、弁護士に相談して自分たちの準備の中に取り入れたこともあった。(とはいえ、一人一人状況は異なるので、コミュニティの中で共有されていた知見で自分のケースに当てはまらないこともあるので、コミュニティ内の情報に振り回されすぎず、最終的には自分のことを一番理解している弁護士の助言を優先することをお勧めする)
色々とお金がかかるプロセスではあるし、結果が約束されているわけではないので、不確実性の高い半年強を過ごすことになったが、無事取得できてホッとしている。
さいごに
改めてこうやって振り返ってみると、今回のO-1ビザ申請時に体験した「自分を言語化する」ということは、過去に経験した、いくつかの体験と似ている部分がある。
例えば大学院出願エッセイを書いていたとき。フェローシップに応募したとき。転職活動の中で応募書類の一つとしてCover Letterを作っていたとき。
・・・どれも「自分って何をしてきたんだっけ?」「何が強みなんだろう?」を掘り起こす作業。
日々の忙しさに紛れて忘れていた小さな経験、当時はあまり意味があると思っていなかった出来事、ずっと続けてきた発信や学びの掘り起こしと意味付け。それらをつなげ、自分という人間の輪郭を形作っていく。
基本動き続けている日々の中で、こうやって、半ば強制的に振り返りをさせられる機会も貴重であったかもしれない。
また、今回は、合計8人の方に推薦書を書いていただき、それを添付した(提出した合計数は1000ページで、推薦書たちはそのうちの20枚前後)。それを準備する過程で、どの方にお願いしようか、その内容にどういうことを(申請時のストーリーを強化するために)強調していただこうか、「彼らからみて、私って何をしたんだっけ?」「何が強みだと伝わっていたんだろう?」を掘り起こす作業があったのもなかなか滅多にない体験となった。
このビザの、次回更新時まで、どう日々を過ごすべきか、自分のリソース(エネルギー・時間)を何に使っていきたいか。
今回の体験を踏まえ、より意識するようになれた気もする。
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